2016-10-16から1日間の記事一覧

SURVIVOR 魂の殺害 エピローグⅠ

「―――俺は7歳のときに心を殺した。上円井。今、俺は生きているか?」 高校を卒業したからして間もない内にこの町から去っていった親友の今泉が、冷たい瞳をしながら微笑んだ。 抑揚をつけない淡々とした喋りは、夕方頃の容姿の整ったアナウンサーが、凄惨な…

SURVIVOR 魂の殺害 エピローグⅡ

「……で、話は終わりだ」 テーブルの空のコップは、もう三杯目になっている。 全て、俺が飲み干したものだ。 今泉は、あたかも市役所の迷子放送みたいに、無感情の温かみの欠ける声で過去を語っていたが、ただ聞いてたまに相槌を打つだけの此方がやり場のない…

良照と里鈴書き直し SURVIVOR 魂の殺害 第一話 "同じ世界"の住人

ある年若い美しい顔立ちの青年が、三鷹市から三鷹駅周辺のビル二階にある、あらしメンタルクリニックへ訪れていた。 受付を済ませ、空虚な心持ちのまま俯いていると 「隣、いいですか」 澄んだ茶色の瞳に鼻筋の通った高い鼻、潤いのないひび割れた唇、毛先の跳ね…

良照と里鈴書き直し SURVIVOR 魂の殺害 第二話 同棲

備え付けの黄色いカーテンが、春の柔らかい木漏れ日に照らされ、煌々と輝いている。 カーテンを開けると眩い光が射し込んできて、良照は思わず目蓋を閉じ、首を反らす。 まだ肌寒い外気だったが、快晴の空から降り注ぐ生暖かい日射しに、良照は春の訪れを感じて…

良照と里鈴書き直し SURVIVOR 魂の殺害 第三話 ほんの小さな幸せ

鈴音はイカを鉄板で挟んで圧縮したせんべいのように、潰れてぺっちゃんこの掛け布団の上で膝を崩し、頭をカクンカクンと前に倒している。 目を半分だけ開いて、口許をもごもごと動かし、頻りに瞬きをしており、いかにも眠たそうな仕草だ。 血色も良くない。 日…

良照と里鈴書き直し SURVIVOR 魂の殺害 第四話 日記

買い物を終え、ワカバストアのビニール袋を片手に持った良照が帰宅した。 何度も何度も瞼が垂れ下がってきて良照を夢心地へ誘おうとするが、いつ壊れてもおかしくない赤錆色の手摺りに掴まりながら、ふらふらした足取りで薄汚れたコンクリートの階段を踏みつけ…

良照と鈴音書き直し SURVIVOR 魂の殺害 第五話 怯えた子ども

「あぁ……。良く寝たぁ」 寝起きと共に声が出るくらい、良照は久々に心地よい目覚めを迎えていた。 しかし意識はまだ半分眠っているようで頭が重い感じがする。 起きろ!起きろ! そう命令し、良照は無理矢理立ち上がった。 枕代わりにしていた痺れた腕に力を…

良照と里鈴書き直し SURVIVOR 魂の殺害 第六話 虐待

「いただきます」 当時五歳であった良照少年が平坦な声の調子で言い、箸を持ち上げる。 そんな少年の一挙手一投足を、母親の葉子の双眸(そうぼう)が捉えていた。 葉子のナイフの切っ先のように鋭利な眼光は、他ならぬ良照の首元に突き立てられている。 葉子の瞳…

良照と里鈴書き直し SURVIVOR 魂の殺害 第七話 過去

意識を取り戻した良照は頭を抱え、部屋の隅っこで震えていた。 背中の凹みに温かい感触がする。 振り返ると―――鈴音が唇の端を上げ、軽い笑いを湛えていた。 部屋を見渡すと、いつも通りの最低限の生活必需品である布団にテーブル、タンスくらいしか目ぼしい…