2017-01-01から1年間の記事一覧

恋愛・青春小説 「PIKE START」 一年前のあの日 その4

午後5時、他の季節なら空が真っ赤に染まっているだろうが昼間のように明るくなっている。 蒸し蒸ししていて生暖かいせいか、時折肌を触る風は涼しく感じた。 keiseiの英文字がデカデカ描かれた改札口を、フライドチキンのチェーン店とポストが挟むように立っ…

恋愛・青春小説 「PIKE START」  一年前のあの日 その3

四方を緑のフェンスに囲まれていて、野外の開放的な空間にも関わらず、どこか閉鎖的に感じるプール施設で、練習に励んでいた。 プール開きは5月に行われるので、プールを使えない10月から5月までの期間は、プールサイドでの筋トレが主な活動内容だ。 入浴前…

恋愛・青春小説 「PIKE START」  一年前のあの日 その2

息まで凍ってしまいそうな過酷な寒さが残った一年前の春。 俺と同じ中学に通学していた女友達の理沙と、県立の進学校である一心高校に向かっていた。 呼吸する度に体の芯へと冷気が入り込み、話をするのも億劫で、無理に会話をしようとは思わなかった。 道中…

恋愛・青春小説 「PIKE START」  一年前のあの日 その1

道路の路肩を歩きつつ、ふと上空を見上げた。 肩を寄せ合うみたいにせせこましく建ち並ぶ、全て黒に塗り潰された家々。 モグラ叩きのモグラのようにちょこっと顔を出す太陽は建物に覆い隠されており、水平線の彼方から届く神々しい橙の輝きが、空を真っ赤に…

恋愛・青春小説 「PIKE START」 その5

結局、二時間をめいっぱい使っても、原田はプールに入ることが出来なかった。 一度プールに入らせようと試みたが、いざ爪先が水に触れると、つったみたいに足をぴんと伸ばして入水を拒んだ。 原田がカナズチなのはしょうがない、しょうがないが、もう少しや…

恋愛・青春小説 「PIKE START」 その4

原田が落ち着くまで、ベンチで休むことにした。 彼女の体が冷えないようバスタオルを巻き付けたが、傍から見れば、その光景は手錠を掛けられた犯人がジャケットを被せられ、警察に連行させられるみたいに映ったに違いない。 今の俺たちは目立っている、そ周…

恋愛・青春小説 「PIKE START」 その3

着替えを済ませ軽くシャワーを浴び、プール場に行くと、カルキの刺激臭が鼻腔を襲う。 普段から嗅ぎ慣れているが、人が多いからか、高校のプールよりもきつい臭いに感じた。 周りを見渡したが、原田はまだ居ない。 素っ裸になってパンツを履くだけの男と比べ…

恋愛・青春小説 「PIKE START」 その2

道路を道なりに進むと、緩やかな弧を描く屋根の建物が見え、やっと汗でびしょびしょの服を着替えられるのかと俺は安堵のため息をこぼした。 シーズンだから想定していた通り、市民プールには涼みにきた家族連れの客でごった返している。 特に車場には、ずん…

恋愛・青春小説 「PIKE START」 その1

肌を刺すように容赦なく照りつける7月の太陽を薄目を開けて見上げ、あまりの眩しさに思わず日差しを手で遮る。 が、その強烈な陽光は、瞼越しにもはっきりと伝わってきた。 目の前の風景は、陽炎のようにぼんやりゆらゆらとしていて、今見えている光景は現…

学校の怪談  一人目 語り部(藤見穣) Aルート「カーテン越しに潜むモノ」 その1

A.それだけ科学で説明できないことが多かったからより分岐野村くんの言う通りです。 著しく科学が発展したことで、今までは「怪奇現象」として扱われていた現象が正しく説明できるようになってきました。 例を上げていくとラップ音は湿度、温度変化によって…

四枚の純情 一通目(近藤雅治編)

拝啓 樋田陽香(ひだ・はるか)様 御身体は大丈夫ですか? まだ冬の肌寒さが身に応える時期なので、くれぐれも体調にはお気を付けて下さい。 貴方への好意を抑えきれず、思いを手紙に認(したた)めました。 といっても、恥ずかしくて陽香さんには送れないのです…

学校の怪談  一人目 語り部(木下栄作) Aルート「泣き声」 その2

「あぢぃ、あづいよぉ……」 授業中なけなしの気力を振り絞って、呻くように誰かが言った。 外ではジージーと絶え間なく、オスの蝉が求愛している。 油で揚げるような鳴き声であるため、アブラゼミと呼ばれているようだが、聴覚で暑さを感じる虫の鳴き声など、…

学校の怪談  一人目 語り部(木下栄作) Aルート「泣き声」 その1

A.道具をキレイにしている時より分岐確かに道具を綺麗に使ってると、気分よく部活に専念できるよな。 なかなか殊勝な心掛けじゃないか。 お前も知っていると思うが、うちの高校はスポーツには力を入れているんだ。 県内の高校でスポーツに本腰を入れたいな…

学校の怪談  一人目 語り部(藤見穣)

B.藤見先輩より分岐「あのーっ、民族学研究部の藤見先輩はいらっしゃいますか?」 長机に置かれた古びた資料と堆(うずたか)く積まれた本の山、そしてそれらの書物をしっかりと見開かれた眼で食い入るように眺める男子部員や、文字を指でなぞって一行、また一…

学校の怪談 プロローグ

僕は野村圭介(のむら・けいすけ)、新緑高校の新聞部に所属しています。 新緑高校は全生徒数862人と県内有数のマンモス校で、敷地面積は何と東京ドーム二個分と……。 あ、すいません! つい、癖で余計なことまで話してしまいました。 普段は運動部の大会結果や…

学校の怪談  一人目 語り部(木下栄作) 

A.木下先輩より分岐 まだ六月だというのに気温は三十度を超えており、学校指定の白のTシャツが肌にぴったりと張り付いて気持ち悪く、廊下で談笑している先輩方の首の周りにも玉のような汗が噴き出ています。 2―A、2―A……、声には出さず舌と口元だけを動かして…

親から死ねと言われたことは、生涯恨み続けるだろう

誰にも好き嫌いがあるように親にとって好きな子どもと嫌いな子どもがいて、姉は前者で自分は後者に分類される人間なのだと中学、高校に進学した辺りから思うようになりました。 社会的には 「明るくポジティブ思考」なのが正しくて、「暗い性格」は悪 「協調…

良照と里鈴書き直し SURVIVOR 魂の殺害 第十一話 安寧

面接帰りの帰り道、陽気な天気とは裏腹に良照の心の中はどんよりと曇っていた。 頭の中に巡らせていた質問への返答も、雑談に終始して言えず終いで、いったい何の為に労力を割いていたのかと、自分で自分の真面目さが馬鹿らしく思えていた。 アパートの外階段…

良照と里鈴書き直し SURVIVOR 魂の殺害 第七話 過去

意識を取り戻した良照は頭を抱え、部屋の隅っこで震えていた。 背中の凹みに温かい感触がする。 振り返ると―――鈴音が唇の端を上げ、軽い笑いを湛えていた。 部屋を見渡すと、いつも通りの最低限の生活必需品である布団にテーブル、タンスくらいしか目ぼしい…