2018-02-01から1ヶ月間の記事一覧
ある国道沿いにレンガ造りの喫茶店が佇んでいる。 周囲に人影はなく、駐車場にも片手で数えられるほどしか止まっていない。 少し車を走らせればゴトーヨーカドーという大型スーパーがあり、そこは駅から近く近隣に団地もあるためか土日祝日は盛況を呈してい…
秋の夕暮れ、世界は赤と黒に塗り潰されていました。 羊が群れを成すみたいに密集した雲は黄金色に染まり、点字を象るかのように向かいの団地に明かりが灯っていました。 裏手の原っぱからはコオロギたちの愛のさえずりが聞こえてきて、心地よく鼓膜を刺激し…
上円井にとって良美さんは母親代わりの少し口煩い姉で、父親の良延さんにとって良美さんは、死に別れた奥さんの忘れ形見で、大切な子どもだ。 彼女、良美さんからすれば俺は弟の親友、ただそれだけの存在でしかないだろう。 けれど……。 それでも俺は彼女が好きだ…
「良照さん、面接に受かるといいですね。いってらっしゃい」 「ありがとう、鈴音さん。行ってきます」 鈴音に送り出されて鉄の扉を閉めると、耳障りな鈍い金属音が鼓膜に突き刺さる。 頭に響くその音に、彼は思わず眉間に皺を寄せた。 これからどうなるのだろう……先…
腕時計の時針は九時を、分針は三十分と三十五分のちょうど間を指している。 腕時計を袖に隠すと良照は再び前を見据え、足早に歩き出した。 徒歩で十分程度の近場で、面接は十時から開始なので時間には若干の余裕があるのだが、絶対に遅刻はできないという義務…
面接帰りの帰り道、陽気な天気とは裏腹に良照の心の中はどんよりと曇っていた。 頭の中に巡らせていた質問への返答も、雑談に終始して言えず終いで、いったい何の為に労力を割いていたのかと、自分で自分の真面目さが馬鹿らしく思えていた。 アパートの外階段…
良照は玄関のドアに背中を合わせながら鈴音の着替えが終わるのを、今か今かと待っていた。 とにかく彼女の機嫌を損ねてはいけない。 必要以上に失敗を隠したりしないで、普段通りに接すればいいのだ。 その逸る心が行動にも出てしまっており、五年前に上京し…