2018-05-01から1ヶ月間の記事一覧

ファンタジー小説「迫害されし冒険者たち」 第七話

用事を終えた一行は街を出て、ルクス大公国の南西にある洞窟に向かっていった。 石ころ一つ見当たらない、湿潤な土壌の平坦な一本道が続いていた。 辺りは閑静で、人影すら見当たらない。 道の両端には、樹齢の低い細長い木々が鬱蒼と生い茂るブナ林。 細い…

ファンタジー小説「迫害されし冒険者たち」 第六話

翌朝さんさんと降り注ぐ厳しい日差しが、容赦なく体内の水分を奪っていく。 チェインメイルの下にレザーアーマー、更にその下に厚手の長袖シャツを着込んだヘンリーの額には、玉の汗がぽつぽつ浮き出ていた。 丸形のハンカチで、顔や首筋の汗を拭いても、滝…

幻獣図鑑「Luna Lupus(ルーナ・ルプス)、月の御子」

得られた情報が少なすぎて書くべきか迷ったが、後世に語り継がねばならないと使命感を覚え、図鑑に記した。 或る男はこの神を、『月の御子』と呼んでいたので、一応併記しておく。 唯一確認できた文献には、『Luna Lupus』(月の狼)との文言が残されていた。 …

幻獣図鑑「マーメイド」

人魚。 上半身は人間の女で、下半身が魚類のモンスター。 川や海に生息し、通りかかった船を水没させるので、注意が必要。 よく絵画や図鑑に描かれるマーメイドは、漁師が獲物を仕留めるために用いる、フォークに似た三叉の矛トライデントを武器として持って…

ファンタジー小説「迫害されし冒険者たち」 第五話

数時間後「やったぞぉ、俺が魔女を倒したんだぁ……ムニャムニャ」 「……ベラちゃん、つれないなぁ。ホントにぃ……」 客たちは完全に出来上がっており、テーブルの背にもたれ、眠りについていた。 酒場には、ブタの鳴き声のようなイビキがこだましていた。 もう…

ファンタジー小説「迫害されし冒険者たち」 第四話

三人が注文を終えると、暫くの間無言のまま時だけが過ぎていった。 どちらでもいい。 話を振ってくれないだろうか。 淡い期待を抱きつつ、ヘンリーは二人はちらちら見遣った。 が、彼らは沈黙を保ったままだった。 しょうがない、俺が切り出すしかないか。 …

幻獣図鑑「レイヴン」

ワタリガラス。 光沢のある黒の体躯が特徴的な大型の鳥。 主に小型の昆虫やネズミ、穀物や種実類(しゅじつるい)、不幸にも息絶えた冒険者たちの死肉を食す。 ルクス大公国の権威を象徴する鳥で、魔除けのペンダント、クエスト完了の印章で馴染みが深いだろう…

ファンタジー小説「迫害されし冒険者たち」 第三話

「アンタも災難だねぇ、喧嘩っ早いのに囲まれてさ」 笑った彼女が身体を小刻みに震わせると、風に揺れる小麦畑みたいに、ブロンドの髪がたゆたった。 引きつった表情で、彼女はローブの女を見遣ったが、ローブの女はそれを無視した。 「助けてありがとう。ア…

ファンタジー小説「迫害されし冒険者たち」

「おい、そこの。暑苦しいフードなんか脱いだらどうだ」 喧嘩腰で、大男がローブのヒトに突っ掛かった。 「まぁまぁ、旦那。これでも飲んで落ち着いてくれよ」 少年は穏やかな口調で語り掛け、テーブルのエールが注がれたジョッキを、大男に握らせ、仲裁に入…

ファンタジー小説「迫害されし冒険者たち」 第一話

酒場にて 「魔女をぶっ倒しゃ、このメシともおさらばだぁ」 円形のテーブルに置かれた、ライ麦が原料の黒パンに目を遣り、大男が言う。 「いやいや、旦那。魔女ァ、俺の獲物ですから」 大男の言葉をニヤニヤ笑いながら、向かいに座るマッチ棒のように細い男…

ファンタジー小説「迫害されし冒険者たち」 あらすじ 登場人物一覧

「邪神復活をもくろむ魔女、シャーリーを討ったものに、莫大な富を与える」 ルクス大公国の大公の言葉を聞きつけ、ルクスの酒場には腕に覚えのある、冒険者たちが集っていた。 「魔女を倒すのは俺だ」 「いいや、俺だね」 酔っぱらった男たちが言い合いをし…

幻獣図鑑「アシッド・ジェリー」

『スライム』に属するモンスター。 黒色の粘性生物で、ありとあらゆるものを溶かしてしまう。 金属製の武器や防具の類は、簡単に腐食させてしまうため、魔術がかろうじて有効。 生態系への影響が懸念されるが、貴重な兵隊を無駄死にさせるわけにもいかず、ど…

幻獣図鑑「ポイズン・ジェリー」

『スライム』に属するモンスター。 緑色のネバネバした身体で、ナメクジが這うようにゆっくりと移動する。 他の『スライム』同様、物理攻撃は通りにくいので、魔術で倒すべし。 近年海に投棄されたスライムをクラゲと間違えて誤飲し、多くのウミガメが死亡し…

恋愛・青春小説 「PIKE START」 空の花、地上の花 その2

駅から徒歩20分以上掛け、俺たち四人は会場に辿り着いた。 いつもは見渡す限り灰色の多目的広場が、今日は鮮やかな色彩を帯びていた。 なかでも一際目を引くのが、赤、紫、白の法被(はっぴ)にパンツという出で立ちの、太鼓を叩く男衆。 そして彼らを取り囲む…

恋愛・青春小説 「PIKE START」 空の花 地上の花 その1

八月下旬の午後5時45分頃。 地元で催される夏祭りにわっつんと小早川を誘い、二人が訪れるのを駅の構内で待っていた。 射的、金魚すくい、カキ氷、りんご飴、わたがし、焼きそば、タコ焼き、焼き鳥etc。 おおよそ夏祭りと聞いて連想する屋台は、だいたい…