2018-05-01から1ヶ月間の記事一覧
用事を終えた一行は街を出て、ルクス大公国の南西にある洞窟に向かっていった。 石ころ一つ見当たらない、湿潤な土壌の平坦な一本道が続いていた。 辺りは閑静で、人影すら見当たらない。 道の両端には、樹齢の低い細長い木々が鬱蒼と生い茂るブナ林。 細い…
翌朝さんさんと降り注ぐ厳しい日差しが、容赦なく体内の水分を奪っていく。 チェインメイルの下にレザーアーマー、更にその下に厚手の長袖シャツを着込んだヘンリーの額には、玉の汗がぽつぽつ浮き出ていた。 丸形のハンカチで、顔や首筋の汗を拭いても、滝…
得られた情報が少なすぎて書くべきか迷ったが、後世に語り継がねばならないと使命感を覚え、図鑑に記した。 或る男はこの神を、『月の御子』と呼んでいたので、一応併記しておく。 唯一確認できた文献には、『Luna Lupus』(月の狼)との文言が残されていた。 …
人魚。 上半身は人間の女で、下半身が魚類のモンスター。 川や海に生息し、通りかかった船を水没させるので、注意が必要。 よく絵画や図鑑に描かれるマーメイドは、漁師が獲物を仕留めるために用いる、フォークに似た三叉の矛トライデントを武器として持って…
数時間後「やったぞぉ、俺が魔女を倒したんだぁ……ムニャムニャ」 「……ベラちゃん、つれないなぁ。ホントにぃ……」 客たちは完全に出来上がっており、テーブルの背にもたれ、眠りについていた。 酒場には、ブタの鳴き声のようなイビキがこだましていた。 もう…
三人が注文を終えると、暫くの間無言のまま時だけが過ぎていった。 どちらでもいい。 話を振ってくれないだろうか。 淡い期待を抱きつつ、ヘンリーは二人はちらちら見遣った。 が、彼らは沈黙を保ったままだった。 しょうがない、俺が切り出すしかないか。 …
ワタリガラス。 光沢のある黒の体躯が特徴的な大型の鳥。 主に小型の昆虫やネズミ、穀物や種実類(しゅじつるい)、不幸にも息絶えた冒険者たちの死肉を食す。 ルクス大公国の権威を象徴する鳥で、魔除けのペンダント、クエスト完了の印章で馴染みが深いだろう…
「アンタも災難だねぇ、喧嘩っ早いのに囲まれてさ」 笑った彼女が身体を小刻みに震わせると、風に揺れる小麦畑みたいに、ブロンドの髪がたゆたった。 引きつった表情で、彼女はローブの女を見遣ったが、ローブの女はそれを無視した。 「助けてありがとう。ア…
「おい、そこの。暑苦しいフードなんか脱いだらどうだ」 喧嘩腰で、大男がローブのヒトに突っ掛かった。 「まぁまぁ、旦那。これでも飲んで落ち着いてくれよ」 少年は穏やかな口調で語り掛け、テーブルのエールが注がれたジョッキを、大男に握らせ、仲裁に入…
酒場にて 「魔女をぶっ倒しゃ、このメシともおさらばだぁ」 円形のテーブルに置かれた、ライ麦が原料の黒パンに目を遣り、大男が言う。 「いやいや、旦那。魔女ァ、俺の獲物ですから」 大男の言葉をニヤニヤ笑いながら、向かいに座るマッチ棒のように細い男…
「邪神復活をもくろむ魔女、シャーリーを討ったものに、莫大な富を与える」 ルクス大公国の大公の言葉を聞きつけ、ルクスの酒場には腕に覚えのある、冒険者たちが集っていた。 「魔女を倒すのは俺だ」 「いいや、俺だね」 酔っぱらった男たちが言い合いをし…
『スライム』に属するモンスター。 黒色の粘性生物で、ありとあらゆるものを溶かしてしまう。 金属製の武器や防具の類は、簡単に腐食させてしまうため、魔術がかろうじて有効。 生態系への影響が懸念されるが、貴重な兵隊を無駄死にさせるわけにもいかず、ど…
『スライム』に属するモンスター。 緑色のネバネバした身体で、ナメクジが這うようにゆっくりと移動する。 他の『スライム』同様、物理攻撃は通りにくいので、魔術で倒すべし。 近年海に投棄されたスライムをクラゲと間違えて誤飲し、多くのウミガメが死亡し…
駅から徒歩20分以上掛け、俺たち四人は会場に辿り着いた。 いつもは見渡す限り灰色の多目的広場が、今日は鮮やかな色彩を帯びていた。 なかでも一際目を引くのが、赤、紫、白の法被(はっぴ)にパンツという出で立ちの、太鼓を叩く男衆。 そして彼らを取り囲む…
八月下旬の午後5時45分頃。 地元で催される夏祭りにわっつんと小早川を誘い、二人が訪れるのを駅の構内で待っていた。 射的、金魚すくい、カキ氷、りんご飴、わたがし、焼きそば、タコ焼き、焼き鳥etc。 おおよそ夏祭りと聞いて連想する屋台は、だいたい…