良照と里鈴書き直し SURVIVOR 魂の殺害 第十一話 安寧

面接帰りの帰り道、陽気な天気とは裏腹に良照の心の中はどんよりと曇っていた。
頭の中に巡らせていた質問への返答も、雑談に終始して言えず終いで、いったい何の為に労力を割いていたのかと、自分で自分の真面目さが馬鹿らしく思えていた。
アパートの外階段の錆びた鉄板は踏みつける度に、ガシャンガシャンと鳴り、聴覚とノミの心臓を刺激する。
いつかこの鉄の段板が抜けて落ちてしまうんじゃないか、そんな不安ばかりが嫌でも頭を過ってしまう。
薄氷を踏むような心地とは、こういう感覚なのだろうか。
下を見ないようにしても、落ちてしまう妄想が掻き立てられ、年甲斐もなく自らの身体がぶるぶると震えているように感じる。
さながら気分は絞首台の十三階段を登る死刑囚だ。
恐怖に震えながらも何とか昇りきると、良照は安堵のため息を漏らした。
「ただいま、鈴音さん」
「お帰りなさい、面接は上手くいきましたか?」
「いえ、なかなか思い通りにはいかなくて……」
内心落ち込んでいたものの、何でもないとでもいう風なすました顔をして言った。
その様子を見て鈴音は押し黙ったまま、ぼんやりと立ち尽くしている。
気まずい沈黙が流れ、良照は徐々に表情をこわばらせた。
時折、射貫くような視線を彼女に投げかけてみても相形から感情らしいものは見えてこず、いったい彼女は何を考えているのだと、疑問ばかり膨らんでいった。
強がって感情を押し殺したことで、彼女へ心配を掛けてしまったのかもしれない。
いや、それとも興味がないから何も言葉を返さないのか。
今の自分と同じように考え事でもしているとか?
悲観的な感情が脳内で堂々巡りしてばかりで、会話が続かない。
外ではそんな彼の心境を知ってか知らずか松の木に止まった名前の通り目の周りが白い二匹の目白(メジロ)が肩に寄りかかるみたいに身体をぴったり密着させて、チュルチュルチュルと美しい囀りを響かせる。
しばらくそのままでいると、鈴音は唐突に
「大丈夫ですよ、きっと。気晴らしにどこか出掛けませんか?」
頬を桜の花弁のように仄かに染め、小さく目を見開いて囁いた。
唇を結んだまま噛み締めるように微笑む彼女の振る舞いには、少女らしからぬ上品さが漂っている。
悪いです、と反射的に言い掛けたが、その好意を無碍にはし辛く、彼は言葉を飲み込んだ。
「いいですね。昼食は外で済ませましょうか」
話を合わせると
「はいっ」
声の弾んだ快活な返事が返ってくる。
憂鬱な気持ちを吹き飛ばす無邪気な明るさに、少しだけ彼の心は軽くなった気がした。